カートイワークス グランプリ

【第15戦 カートイワークスグランプリ】飛行機モデルライター 林 周市様

皆さんこんにちは。林 周市と申します。模型誌や各イベントで活躍中のプロモデラーの柳井健二さんから紹介をいただき、記事を書かせていただく機会を得ることができました。今回は自伝的な内容で私自身の成り立ちを書かせていただきたいと思っています。柳井さんにはこの場をお借りして厚くお礼申し上げます。

先ずは簡単な自己紹介をさせていただきたいと思います。私は1975年生まれ、静岡県浜松市に住んでおります。学生時代に4年ほど海外に留学していた時期以外は、ずっとこの地で過ごしています。模型歴は10年ほどです。4年ほど前に飛行機模型専門誌スケールアヴィエーションにて誌面デビューをし、以降様々な活動に参加させていただいております。

主に掲載させていただいているスケールアヴィエーション誌

さて、プラモデルと私の繋がりなのですが、実はそれほど長い付き合いではありません。

というもの、プラモデルを本格的に始めたのは30代初めからでした。それまではプラモデルという世界に興味はあったものの、「終始面倒くさくて、根気のいる趣味」という認識が立ちはだかり、手に取るというところまではいきませんでした。浜松は模型屋さんが数多く存在する街です。幼いころからプラモデルの存在は知っていましたが、精巧に組み、丁寧な塗装で仕上げられた完成作品をショーウィンドウ越しに見て、「それはごくわずかで、ある特殊な才能の人達が手掛けたもの」と思い、私には到底手が出せない領域の世界だと思っていました。

小学生の頃は、ぜんまいで動くゾイドビックワンガムのおまけが大好きで、学校の図画工作の授業も大変楽しみな時間でした。特別絵がうまいとか、工作が得意というわけではなかったのですが、何か手を動かして作り出すことに喜びを見出していた少年時代だったように思います。浜松といえば工業の町。自宅から学校までの通学路には大小さまざまな町工場があり、毎日機織りの機械がけたたましい音を立てながら稼働していました。ほぼ自動化され無人だった工場内に友達と忍び込んだり、近所に大変木工工作の得意なおじさんがいて、よく竹トンボを作ってもらったり、私にとってものつくりの現場はごく日常的な光景でした。

それでも学校から帰るとザリガニを採りに行ったり、友達と自転車で暗くなるまで遠くに行ったりと、家にいるよりは外出が好きな子供でした。

中学に入ると、部活は運動部に入り、文字通り文武両道の生活を送っていました。このころはほとんど何かを作るということはなくなりました。どちらかというと体育会系でしたし、興味も薄れていたせいか、苦手な科目は美術と音楽でした。中学三年のときのクラス担任の先生が美術科で、この先生に気に入られたのがきっかけで美術の成績だけはよくなりました。それでもクラスに何人か漫画やイラストが得意な級友がいて、ちょっとうらやましかったです。

高校時代もテニス部に入りました。家でじっとしていられない性格は変わることがなく、外で活動するのが好きでした。音楽が好きになったのも高校三年生の時に初めてカラオケボックスに行ったことがきっかけでした。卒業後は唯一得意だった英語の勉強を続けたいと思い、両親の勧めもあってオーストラリアに留学しました。メルボルンという都市中心部で生活していました。ここは芸術文化活動が盛んな街で、特に演劇分野などではメル=ギブソンさんなどの多くのハリウッドスターを生み出した場所でもあります。私は市内の学生寮に住んでいましたから、友人にも恵まれ、毎週末になると多くの観光客がにぎわう大道芸などのイベントを見に行ったり、平日の下校時などはストリートアートやミュージシャンを観賞したり、とにかく充実した毎日を送れたことを幸運に思っています。いままで苦手か、興味薄だった美術や音楽が、実は大変すばらしいもので、それらを世界的にも高レベルの成熟度を有する場所でともに過ごせたことが、後々の人生に活きてくるということはこのころはまだ知る由もありませんでした。もちろん様々な国の学生から学んだ文化や習慣の違いを理解し、多様性を受け入れる姿勢も大切な財産になったと思います。大学では主にインテリアデザインを学びました。美術らしい授業を始めて受けたという感じでしたが、実際に絵を描いたり、何かを設計するというよりは、空間デザインのための色彩感覚や基本的な空間把握能力、多くのことに通じるであろう感性そのものを養う学科だったと思います。

帰国後は地元の製造業に就職をし、社会人になってからすっかりデザインのことからは離れてしまいました。趣味といえば従兄がバイク好きなガンマニアで、週末はよく遊びに行きました。そのうちサバイバルゲームに参加するようになり、よく動き、よく散財しました。もともと外に出るのが好きだったので、夢中で楽しんでいました。会社でも機械修理はよくやっていたので、機械いじりは得意だったように思います。その後30代半ばで家業を継ぎました。家業は学習塾で、父が興した事業ですが、私は英語が生かせる分野だと思い、事業継続を志願しました。子供たちと接することで、それが心の清涼剤になっているというか、素直な心たちの世界で自分自身が癒されているように思います。

授業自体は午後、深夜までですからサラリーマンだったころと比べると幾分か時間に余裕が持てるようになりました。年齢とともに外出する機会も徐々に減っていき、空き時間の合間を利用して、自分の興味のある分野での、ものつくりと関係することがしたいなと考えるようになりました。長く製造業にいたのでやはり手を動かすことをやめられなかったのだと思います。浜松人の気質なのでしょうか。

そのせいもあって、「生涯にわたって取り組める趣味のようなもの」を探すことになるのですが、初めは楽器演奏などの音楽関連や絵画などの美術方面でもよいと思っていました。しかしいずれも敷居が高いと思っていた上に、そもそも学生時代にあまり得意ではなかったという自覚が邪魔をして、取り組むにはやや腰が引けてしまい、結局実行することはありませんでした。それにそんな大げさな夢を追うわけでもないので、ごく手軽なもので良かったのです。勉強の必要もなく、失敗しても誰の迷惑にもならないし、終始一貫して自分の判断で進めることができる趣味。プラモデルは何かを自分の手で形にする満足感を得るには最適だと思いました。

私は飛行機のプラモデルを主に製作するモデラーです。

プラモデルを作ろうと思いたった時、飛行機をテーマに選ぶのにはそれほど時間がかかりませんでした。浜松は航空自衛隊浜松基地のある町です。戦前から存在し、自宅から車で10分程度の場所にあり、基地所属の海難救助隊のヘリは私の自宅の真上を通過します。父が飛行機好きで、その影響あって中学の頃から、ほぼ毎年のように航空祭に通っていましたし、遠巻きではありますがその気になれば毎日のように航空機を眺めることができるような環境にいます。

空を自由に飛ぶことができることへの憧れは、自分がそれを意識するまでもなく、自ずとはぐくまれたのだと思います。特に社会人になってからは色々なことが自分の思うようにはいかない現実を知り、社会的責任という様々なしがらみから自分を追いつめることが多くなり、誰の干渉も受けない自由な世界の象徴の対象として大空の鳥や航空機に想いを向けたのだと思います。

ともかく、自分にとって航空機は非常に興味深い乗り物であり、基地航空祭などではその近くまで寄って、閉場時間になるまでよく眺めていました。当時は自衛隊機とともに米軍(在来機)の機体も展示されていました。F-14F/A-18F-16などの戦闘機やA-10攻撃機やヘリなども見ることができました。そして、それらの多くはもっぱら実戦を経験したいわゆる帰還兵のオーラを放っていました。おなじ制空迷彩でも自衛隊機のそれとは迫力が違うというか、汚れ方や使われ方が違うのだなと、理屈抜きに視覚で理解することができました。展示機体の向こうに、生々しいリアルを感じたというか、機体自体が生き様を語っているようにも思いました。

1/32  F-16C 一番好きな機体で、F/A-18に次いで、大変制作する回数の多い機体です。タミヤのキットで、とても作りやすいキットだと思います。

いまでこそインターネットで様々な機体を画像や映像で見ることができますが、やはり実際に自分の目や肌で感じることが何より印象に残ると思います。

また、航空機は極めて独特で繊細な構造をしており、徹底的に性能を追求した究極の形状というものは、かくも美しいものだなと無学ながら妙に納得したことを覚えています。

一言で言ってしまえば、それらをまとめて「かっこいいな」と感じたわけです。

ですからどんな飛行機プラモデルに仕上げたいのか、自ずと答えは出ていたようなものでした。かっこいい作品とは何か、モチーフは漠然としながらもイメージとしてはっきりしていたと思います。

初めは簡単なキットから手を付け、工具なども必要最低限のものから揃えました。当初はイメージの通り、相当面倒くさく根気のいる作業だなと思いました。はじめからうまくいくはずもなく、完成しないこともしばしばありました。なかなか説明書(手本)の通りに行かない場面もありました。

しかし私もそれなりに人生経験を積んでいますから、それはどんなことにも共通する課題だと思い、まずは完成させることだけを目標に、マイペースでスキルアップしていこうと思いました。近年発売されるキットの多くは非常に精巧で、組み立てやすいよう工夫がされており、従来のイメージとは違うなと感じる製品が増えたなと感じます。私も初めは組み立てやすく、完成するまでの道のりがそれほど険しくはないであろうキットをあえて選んで組んでいました。私は今でもそうですが、あまりキットの改造はしません。どちらかというといわゆるストレート組を好むタイプで、キット本来の持つ特徴を維持しつつ、塗装によって魅せていくスタイルのモデラーです。塗装をするうえで、それが引き立つための工作は最低限の範囲で行いますが、基本的には塗装を十分楽しみたいと考えているのでその方向性は結果として作品にありありと浮き出ていると思っています。

そうはいっても、やはり工作は苦手だからというのが正直な理由です。思えばいわゆる食わず嫌いはプラモデルに関わらず、ほかのことでもよくありました。やってみたら意外とうまくいった経験は誰にでもあると思うのですが、プラモデルで失敗するたびに、本当は失敗ばかりでもなく、理想が高いゆえに、上手くいった部分とそうでない部分が両方あって、相対的に印象の強い方だけを取って判断しているだけということに気づくようになりました。食わず嫌いなだけで、根拠はないが、おそらく私はプラモデルに向いていると考えるようにしました。

完成させることが第一目標であるならそれを阻害する追加工作は避けるべきで、技術的な問題より、気持ちの問題だと思います。最大の障壁となる意識は、完璧なものを目指そうとする欲求そのものだと思います。理想を持つことは大切ですが、その時できる精いっぱいのことをやれば、それで十分だと思えるようになりました。

プラモデルを作るにあたって、自身の人生から役に立ったことがあるとすればそれは製造業での経験だと思います。私は当時生産技術管理という部署で働いていました。実際に製品を作るというよりは安定した品質と大量生産を可能にするいわゆる「夢の工場現場環境」づくりを促進する側の立場にいた人間です。専門の職人を必要とせず、誰でも一定の水準の品質を維持した製品を作り出すことができる製造ラインの設計、管理業務です。作業手順の考察から始まり、使用工具は使い勝手良いものか、作業台の高さは最適か、照明の明るさは十分か、挙げだすときりがないのですが、そもそもそれらは低コストで安全なものなのか、とにかくいろいろなことを考える部署でした。ラインを改造したり、マニュアル文章を変更したりする作業は、主に作業者側に立った改善であることが多かったので、やりがいを感じる場面が多かったです。仕事を進めやすい方法を考えて、なんらかの工夫をするという発想はプラモデル制作においても当然役に立ちます。

例えばプラモデル制作には必ず待ち時間が必要になります。貼り合わせた接着剤が完全に乾燥するまでの時間、塗装に使った塗料の乾燥までの待ち時間などは特殊な設備を用いない限り、時間を稼ぐことができません。故意に時間を短縮できる工程はいくらでもありますが、完全に乾燥してからでないと進められない工程もあります。特に飛行機プラモデルは接着、乾燥、塗装、また乾燥といった具合に各工程が交錯しますから、説明書通りに進めても時間があるにもかかわらず待たなければならない場面が往々にして存在します。効率面から言ってそれは決して良いとは言えず、限られた時間でいかに作業を進めるかは知恵を絞らないと答えが出てきません。加えて隙間埋めなどのパテ盛やその後の整形などといった加工をそれらに加えるとなると、さらに手順の組み立ては複雑化し、どの作業をどの作業の前に、どのタイミングで進めるかで、完成までの道のりがかなり変わってくると思います。十分に乾燥させたい大型パーツは先に組んでおくとか、いろいろ方法があるのですが、早く作ることが正解だともいえないのでその辺はケースバイケースです。もちろんこの取り組み方自体は特に納期などのある作品にたいして大変有効だと思います。

プラモデル作業のほとんどは毎回同じような作業の連続です。反復することで上達するものばかりです。やがて自分にとって一番効率の良いやり方簡単で早く、そして効果的なテクニックを見つけ出すことができるようになりました。

自分に合ったやり方を見つける喜びは組み立ての工程にとどまらず、塗装工程にも当てはまります。工具はもとより、近年続々と登場する塗装用補助アイテムなどは、本来専用品ではないものが、プラモデル制作に活用できる場合が多くあり、また実際にそれらが見直され、改めてプラモデル制作用に再開発されるアイテムが沢山あります。常に周囲にアンテナを張り、単に完成品を目指すことより、既存の方法論に捕らわれず、より使いやすい工具や新しい塗料マテリアルの使い方をウェザリングテクニックに取り入れていくための模索をするという行為もプラモデル制作の楽しみ方であると思います。もっともそう思えるようになったのはごく最近のことで、一つまた一つと完成品を仕上げることが最大の喜びだと思っています。そういった内容はもっぱら模型誌や著書にて紹介してありますので、興味がありましたら手に取って読んでみてください。


1/32 トランぺッター社 TBF アベンジャー雷撃機 第二次世界大戦時中の機体は、資料があまり豊富ではない反面、想像力を使って当時の状況を想定して塗装に反映できるのが楽しいと思います。大きな作品は撮影ブースに収まらないので近所の湖で撮影しました。

 

プラモデル制作を始めて3年ほどたった時、それまではSNSで日記代わりに何の気なくアップしていた作品を、とあるプラモデルコミュニティーのお誘いを受け、以降はそこに投稿するようになったのが現在の活動につながる大きなきっかけです。当初完成させた作品を投稿用に撮影するスペースが部屋の中になかったので、近所の湖や奥行きのある広い駐車場などで撮影しました。スケールサイズも飛行機プラモデルとしては大きめだったので非常にリアルな画像が得られました。技術的な関心もそうですが、色に関する興味も高くなり、いろいろな色彩を試したいと思うようになりました。一見したところ、本物を撮影したかのように見える効果は、映画撮影用のプロップが非常に大きめで、映画の世界観に合わせた色彩で塗装され、撮影されている理由に近いと思います。作品投稿を続ける中で次第に知り合いの輪が広がっていき、業界では大先輩で私の師匠でもあるMAX渡辺先生の紹介を受け、模型誌での活動を始めることになりました。それまで私の作品は門外不出であり、初めて自分の作品を持ち寄り先生の前に披露した時は大変緊張したことを覚えています。同年には地元近郊の模型クラブのお誘いを受け、これまた初めて静岡ホビーショーの合同展示会に参加することになりました。趣向を凝らした素晴らしい作品が所狭しと並ぶ会場の雰囲気には終始圧倒されましたが、以降毎年参加するようになり、なかなかお会いできない方とも交流をすることができるようになりました。そういった国内での活動と並行して、SNSでは海外の友人が爆発的にどんどん増え、もっぱらSNS内では英語でコメントの受け答えを行うなど、作品を通じて多く海外の方から応援してもらえるようになりました。当初から私の作品は特に海外のモデラーさんの印象が良いようで、つたない語学力でも積極的にコミュニケーションをとろうとする姿勢が評価されたのだと思っています。私は海外のモデラーさんの作品の表現手法を参考にすることが多いのですが、その姿勢はプラモデルを始めるずっと以前の、メルボルン時代での経験がそうさせるのだと思います。


去年制作した1/32 アカデミー社 F/A-18A  仮想敵機仕様 迷彩パターンが特徴的で近年はこういった様々な色を使用する迷彩塗装を施してある機体をテーマーに制作することが多いです。

前述のとおり、SNSでの投稿を始めるまでは、自分の作品を人に見せるようなこともなく、もちろん展示会などにも行ったことがありませんでした。もともと個人で完結する趣味だと思っていましたから、今でも一つ完成させるたび、充実感と喜びを感じる日々です。ほかのモデラーさんとの交流はいつもよい刺激を与えてくれますが、自分の作品の世界観は自分で見つける以外にはないと思っています。特に塗装表現においては、その成果が如実に作品に現れるので、感覚を研ぎすませ、他者の見識の入り込む余地がなどないほどに孤独な作業の連続です。作業が行いやすいように環境を整理するのも大切ですが、そもそも体調の良しあしも関係してきます。感覚の世界の領域ですから言葉や数字で言い表せるものではないように思います。

その甲斐あってか、私の作品は特に塗装表現において高い評価をいただいております。もともとプラモデルを始める以前に、絵画を始めようかなと思っていた経緯がありますから、その工程に注力するのは自然な成り行きなのかもしれません。極端な言い方ですが、色塗りがしたくてプラモデルを始めたといっても過言ではないでしょう。塗装表現においては先ず、どれだけテーマに対するイメージが明確であるかがその後の進め方に大きく影響してきます。つまり、イメージが具体的で、それを適切な手順とテクニックを用いることでそれを作品に落とし込むことができれば、より理想に近い形で作品を終えることができると考えています。

例えば飛行機模型は紛れもなく実機がモチーフとして存在しますから、実機を見たときにどの部分が印象的だったかはその後のイメージとして大きく関与します。私が実機の印象をどうとらえたかが作品の表現としてアウトプットされるわけです。この部分こそが個性ともいえる箇所であり、必ずしも実機のそれと同じとは限りません。いわゆる模型的な表現とは、実機の持つ表情をデフォルメ、もしくは誇張することで、実機にはない模型ならではの面白さを生みます。そしてそれを基として、実機にも存在するようなリアルな表情を加味することで、説得力を持たせていく。それらのバランスがうまく作用しあって作品全体が有する世界観を決めていくのだと思います。毎回同じとは行かず、最も気を使うところではあります。アウトプットにあたって、形のない印象(イメージ)を塗装という一つの目に見える作業で具体化するわけですから、試行錯誤の工程を含め、イメージを的確に表現するための塗装テクニックが必要になります。当然うまくいく時とそうでない時があります。ですからどのような塗装を行うかは選択肢が多ければ多い方が有利なわけです。自分のイメージを実際の塗装作業に落としこむ過程で、従来の自分のやり方では表情に乏しすぎて足りないとか、イメージからむしろ離れていくようなテクニックを採用していたのなら、その方法に慣れ親しんでいたとしても、いったんそれを一旦やめる場合があります。他の手を打つわけですが、自分の経験を否定するほどではないにしろ、過去にこだわらない姿勢は勇気がいることですが、より良いものを生むためには必要な行為であると考えています。

いずれにしても、何度も何度も失敗を繰り返し、その都度リカバリーをし、失敗によって得られた経験をもとに、次の作品に生かすということの繰り返しのように思います。特に塗装過程によって発生する失敗は、その時は失敗であっても、予期せぬ表情を生むことがあるのでテクニックとして大成すれば、十分生かせる失敗もあります。例えばAFVなどで用いられる剥がれ表現などはまさしく失敗から転用されたテクニックであり、本来十分に定着すべき塗膜が何らかの下地の影響を受け剥がれやすくなった状況を逆手に取った技法であると思います。もちろん、できることなら失敗は避けたいと思うのが人情ですが、失敗した時にどう立ち振る舞うかで、新たな発見につなげることができます。世の中の事象で、失敗から生まれた発明品や革新的な新製品は列挙にいとまがないでしょう。私も失敗は毎度のことで、その都度作品の方向性自体の修正を若干行ったり、全くほかのテクニックで補うことで極力自分の描く本来のイメージに近い作品になるよう補正していく作業の連続です。世の中においては失敗を良しとせず、できるだけ早い段階で成功することを求める風潮がありますが、プラモデルの世界においては全くそのようなことがなく、むしろ遠回りして、自分のペースで物事を進めることがかくも心地よいものであるかを教えてくれるような気がしています。


1/32 キティーホーク社製 F-5 タイガーと付属のパイロット フィギュアは普段あまり塗装しませんが、目下勉強中で、少しづつ練習をしています。

思い起こせばこの数年間、多くの時間をプラモデル制作に充ててきました。時間が許せば朝6時に起きて夜中3時まで製作していることもあります。肩は凝るし、夏場などは体重は落ちます・・・・。この数年は制作以外での活動自体も増え、それは大変目まぐるしく、やったことのないことばかりで戸惑うこともしばしばあります。もともと趣味で始めたわけですから、当初からライターを目指していたわけではなく、業界に関わるということも念頭にはおいていませんでした。それでも誰かの役に立つのならと思い、できる限りの範囲で関わりたいと思っています。そうであっても、基本姿勢として、ただ、自分にとって納得のいく作品を追求することにこだわりたい。一見華やかな世界であっても、プラモデルに関わる問題のほとんどは机に向かってコツコツと手を動かさない限り解決しないことだと思っています。そして、モデラーとは他の芸術家同様、活動に終焉やゴールなどなく、生きている限り延々と作品を残すことが宿命だと思っています。私は自分の作品の範囲においては、すべての点においてその支配者であり、終始コントロールできる環境を望んでいます。それが私の原点です。単に自分は、そういう面では比較的短期間の間にして多くの方にそれを認めていただき、幸運だったのかなと思う次第です。私は自身の活動が職業として成功することよりも、自分の残した作品が多くの方の製作のモチベーションの糧となることを望んでいます。仕事としての作品作りと、プライベートとしての作品作りを明確に区別することはありません。背伸びをしたり、自分で自分に無理強いすることなく、どの作品もその時できる精いっぱいの情熱と技術をもって取り組むようにしています。評価は二の次で、まずは自分がどれだけ納得した作品を残せるか、そのうえで受け手の判断があり、評価が発生するものだと思っています。こう書くと、融通の利かない職人気質のようなモデラーだと思われがちですが、私自身はそれでいいと思っています。ただ、私は私の作品が、特に若い人たちにとって親和性のある作品であることを望んでいます。それらが次の世代への財産となればと思っています。私は飛行機が好きで、飛行機模型が好きになり、それを自らのプラモデルの題材として選んだように、より多くの方が飛行機模型を始めたいと思うきっかけとなる作品であるためにどのような取り組み方をしたらよいかを日々考えています。これは紛れもない事実として、プラモデルの世界だけに関わらず、どんなことでも、人に感動を与えることができる人は、人から大切にされます。とはいえ、本来は他人を意識する必要のない、全く制約のない世界がプラモデルにはあると思います。


1/32 F-16C  F-16は好きな機体の一つで、何機も作りました。この作品は別売のデカールを使用して、仮想敵機仕様に塗装してあります。

現在はSNS投稿から誌面デビューを果たすライターさんの話をよく見聞きします。それが大きな節目になることは間違いがありません。上達の早い方、時間のかかる方、経験や背景にある肩書はさほど重要ではないのかもしれません。プラモデルに対する取り組みにおいて、モチベーションのよりどころ、目標とするものは、人によって異なります。SNSによって世界中のモデラーさんの作品が瞬時に観賞できるようになった今、作品の方向性も多様化を極め、それらが自らと異なるものに対していかに寛容であるか、あるいは共有する姿勢を持つかが問われる時代になってきたと思っています。私の場合は、模型コンテストにあまり参加したことがなく、ゆっくり考える時間もないまま、気が付いたら手本を示し、海外の模型イベントに出向いて審査員をやったり、講演をしたりする立場になっていました。こういう場面では留学していた時の経験が活かせました。かつてオーストラリアで、私の生活していた学生寮には多くのアジア人留学生がいましたし、毎日のように彼らと行動を共にしたという経験が、今になって大きく活用できるようになろうとは夢にも思いませんでした。そしてプラモデルを愛でる者同士として、彼らと私とで何ら文化や慣習の隔たりはなく、普段私たち日本人モデラーが制作上日々悩んでいる課題について、彼らも同じように考えていることに大変驚きました。多少言葉の障壁があっても、意思疎通は十分可能であり、共通の課題に対する意見を交換していくことで、より関係性を深めることができると考えています。彼らの多くはプラモデルの制作や塗装技術に関して非常に貪欲で積極的であり、様々な関心ごとを抱いています。また、日本のプラモデル文化に対して非常に強い関心を持っており、一人でも多くの日本人モデラーが海外モデラーとの交流を深めることを願っています

模型文化を発信する手段としても、個人がSNSによって自由に情報を発信することができます。そうである中で、雑誌などの紙媒体が実は非常にニーズが高く、ある国では自国に模型誌を発行する企業が一つもないケースがあります。日本の書籍は、そのデザインはもとより、紙の質やインクの質が良好で非常に印刷技術の高い商品が多いです。素晴らしい作品を手に取って観賞することができるのも、紙媒体の良さでしょう。誌面がすべて日本語で、記事が読めないにも関わらず、日本の模型誌を取り寄せてまで入手する海外モデラーさんは非常に多いですから、これからはそういった方々のニーズにもこたえていくべきでしょう。私が過去に出版した飛行機模型の塗装、及びウェザリングに関する単行本はそういった思いがあり、企画の段階で要望を出して英文を記載させてもらったのですが、海外先でも大変好評で、うれしく思った記憶があります。


MENG(モン)モデル 1/35 BM-30 多連装ロケット搭載車両 大変パーツ数の多い精巧なキットです。 英国海外誌に紹介してもらった作品です。

1/35  AFVCLUB社 ストライカードラグーン 歩兵戦闘車 組み立てから塗装、完成まで非常に短期間で終えられるのでAFVはちょっとした息抜きの時などに制作しています。いつかジオラマなどにも挑戦したいです。

飛行機模型以外では頻度は少ないですがAFVを制作することもあります。先日は自分の得意ジャンルではないにしろ、AFV作品を模型誌に採り上げてもらったことは大きな自信になりました。空のものと陸のものでは、塗装に使うマテリアルやそもそも色彩が異なるので、いろいろな発見があって面白いと思います。自分が普段手に付けることがあまりないようなジャンルからでも応用できるヒントはたくさんあります。私は展示会に参加した際は、なるべく飛行機作品よりも他のジャンルの作品に注目するようにしていますが、それは普段目にする機会がほとんどないからです。また、出展に際して、飛行機作品が自分だけという場もありますが、逆に普段飛行機模型をあまり作らない方に対して刺激的でああればと思っています。

デビューからはあっという間の4年間ですが、このスピード感が逆にプレッシャーにならないよう、自分というものしっかり維持する必要があります。未だに自分の実力を認識できない瞬間が多々ありますが、正直言って、今は自分の可能性に際限がないことを日々実感しており、プラモデルと関わることで、より大きな喜びを得ることができると信じています。そしてそれをずっと継続していけたら、もっと素晴らしい景色が待っていると思っています。プラモデルはそれ自体に意思はありませんが、やったらやった分だけそれに対して確実に応答してくれる存在です。前よりも良いものを作りたいという信念をもって、これからも魅力的な作品を残していきたいです。

プラモデルを愛する人はたくさんいますが、プラモデルに愛されていると実感したらもっとハッピーなのではないでしょうか。

1/35 アカデミーAH-1Z ヘリコプターも好きなので、たびたび取り組んでは、制作を楽しんで作っています。


林 周市

静岡県在住
2016年 スケールアヴィエーション誌にてライターデビュー。
2度にわたる個人特集などを経て、現在も継続的に誌面に協力。
インタグラム、ユーチューブ、FB、ツイッター、微博(ウェイボー)で作品紹介を更新中
日本のみならず、海外などでの写真集の販売、実演やトークショー、審査員などを務める。
海外模型誌、ブログなどへの作品寄稿をはじめ、プラモデルメーカーとの親交も深い。
代表的な著書に「エアモデル ウェザリングマスター 林 周市の世界」大日本絵画

 

単行本用に制作したTAMIYA 1/32 F4-U コルセア ガルウィングと称する主翼が特徴的な機体で、私は同スケールで4機制作しました。

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林周市
林 周市 静岡県浜松市在住 1975年生まれ 学習塾経営  2016年 スケールアヴィエーション誌にてライターデビュー。Instagram、YOUTUBE、FaceBook、Twitter、微博(ウェイボー)で作品紹介を行う傍ら 日本や海外などで作品展示、実演やトークショー、作品審査員などを務める。 海外模型誌、個人ブログなどへの作品寄稿をはじめ、海外プラモデルメーカーとの親交も深い。 代表的な著書は「エアモデル ウェザリングマスター 林 周市の世界」大日本絵画
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